大手企業との競争。
普通に見積を出せば、価格で負ける。
その時、太一はAIを使って、お客様自身も気づいていない課題を見える化した。年商29億円、社員45名の製造業・岡田テック。
AI導入2年目に入り、岡田テックでは少しずつ変化が起きていました。
現場では、若手社員が改善提案を出すようになりました。
ベテラン社員の経験は、AIを使ってチェックリスト化され始めました。
営業では、「うちは何でも作れます」という言葉をやめ、お客様の困りごとを整理する提案型の営業に変わり始めました。
しかし、会社が本当に変わるかどうかは、大きな案件の場面で試されます。
ある日、岡田テックに新規案件の相談が入ります。
しかし、その案件には大手企業も競合として参加していました。
普通に価格で勝負すれば、岡田テックは不利です。
設備規模、量産体制、価格対応力では、大手に分があります。
その時、太一はAI導入コンサルタント西尾とともに、単なる部品提案ではなく、お客様の未来の困りごとを先回りする提案を作ります。
この第7話では、AIを使った営業提案が、製造業の価格競争から抜け出すきっかけになる場面を描きます。
大手企業も参加する新規案件
その電話が入ったのは、月曜日の午前だった。
営業担当の森下が、少し緊張した表情で太一の席に来た。
「太一さん、新規案件の相談が入りました」
太一は顔を上げた。
「どんな案件ですか?」
「医療機器関連の部品です。試作から量産まで見据えているそうです」
その言葉を聞いて、太一の表情が変わった。
医療機器関連。
岡田テックにとって、簡単な案件ではない。
品質要求も高い。
納期管理も厳しい。
記録も必要になる。
一度信頼を得れば、長く続く可能性がある。
営業担当の森下は続けた。
「ただし、大手の住井医薬も見積に入っているようです」
その場にいた岡田信三は、思わず眉をひそめた。
「住井医薬か」
信三には、すぐに分かった。
普通に見積を出せば、価格で負ける。
岡田テックは年商29億円。
社員45名。
決して小さな会社ではない。
しかし、大手企業の住井医薬と比べれば、設備の数も、人員も、資金力も違う。
同じ図面に対して、同じように見積を出せば、どうしても価格比較になる。
そして価格比較になれば、大手が強い。
信三は腕を組んだ。
「無理に追わなくてもいいんじゃないか」
昔の信三なら、それでも食い下がったかもしれない。
安くしてでも取る。
短納期で応える。
多少無理をしてでも、実績を作る。
そうやって岡田テックを大きくしてきた。
だが、最近は少し違った。
無理な安売りは、現場を疲弊させる。
利益の薄い仕事を増やしても、社員は育たない。
会社の未来にもつながらない。
そのことを、AIで受注履歴を整理してから、信三も少しずつ理解し始めていた。
太一は言った。
「価格だけで勝つつもりはありません」
信三は太一を見た。
「じゃあ、何で勝つんだ」
太一は静かに答えた。
「相手がまだ気づいていない困りごとを、先に出します」
普通に見積を出せば、価格で負ける
翌日、太一、森下、西尾は会議室に集まった。
机の上には、顧客から届いた図面、仕様書、メールのやり取り、過去の関連案件の資料が並んでいた。
森下が言った。
「先方は、まず試作品を作りたいようです。その後、問題がなければ量産を考えていると」
西尾が聞いた。
「先方が一番気にしていることは何ですか?」
森下は資料を見ながら答えた。
「品質と納期です。ただ、メールを見る限り、価格もかなり見ていると思います」
信三は低い声で言った。
「住井医薬がいるなら、価格勝負は厳しいな」
太一はうなずいた。
「だから、価格以外で比較される資料を作ります」
西尾は、顧客情報をAIに整理させた。
もちろん、AIに機密情報をそのまま投げ込むわけではない。
社内で扱える範囲に整理し、不要な固有情報は伏せた上で、案件の特徴や想定される課題を洗い出した。
すると、いくつかの視点が出てきた。
医療機器関連部品では、試作段階の品質だけではなく、量産移行時のばらつきが問題になりやすいこと。
設計変更が途中で発生する可能性があること。
納品記録や加工条件の記録が後々重要になること。
担当者変更時に、過去のやり取りが残っていないと混乱しやすいこと。
森下が言った。
「これ、先方はまだ言ってませんよね」
太一は答えた。
「言っていないけど、起きる可能性が高い」
西尾が続けた。
「ここを提案に入れましょう。部品単価だけではなく、量産移行までの不安を減らす提案にします」
信三は少し驚いた。
今までの岡田テックなら、図面を見て、材料費と加工時間を見て、見積を出していた。
聞かれたことに答える。
それが普通だった。
しかし太一たちは、聞かれていないことまで考えていた。
お客様が今困っていることだけでなく、半年後、一年後に困りそうなことを見ていた。
AIでお客様の未来課題を整理した
太一たちは、AIを使って提案書の骨子を作った。
ただの見積書ではない。
タイトルはこうだった。
「試作から量産移行までを見据えた部品製造サポート提案」
森下は最初、少し戸惑った。
「これ、見積依頼に対して出すには大げさじゃないですか?」
太一は首を横に振った。
「大げさじゃない。価格で比較されたら負ける。だから、比較軸を変える」
提案書には、次の内容を入れた。
1つ目は、試作段階で確認すべき加工ポイント。
2つ目は、量産時にばらつきが出やすい箇所。
3つ目は、設計変更が起きた場合の記録管理。
4つ目は、納品時の品質確認フロー。
5つ目は、担当者が変わっても引き継げる顧客対応記録。
信三は資料を見ながら言った。
「これは、部品の提案というより、相手の仕事全体を見ているな」
西尾はうなずいた。
「はい。これが大事です。お客様は部品だけが欲しいわけではありません。安心して量産まで進める相手を探しています」
太一は続けた。
「うちは大手みたいに安くはできない。でも、細かく見られる。現場と営業の距離が近い。変更にも早く気づける。そこを強みにする」
信三は黙っていた。
今まで、岡田テックの強みは技術だと思っていた。
もちろん、それは間違いではない。
だが、技術だけでは伝わらない。
お客様にとって、その技術がどんな安心につながるのか。
どんな手戻りを防ぐのか。
どんな将来の混乱を減らすのか。
そこまで言葉にしなければ、価値は伝わらない。
AIは、その言葉にする作業を助けていた。
部品の提案ではなく、量産までの安心を提案した
提案当日。
太一と森下は、顧客の会議室にいた。
相手は購買担当者と技術担当者の二人だった。
最初に森下が、会社概要と加工実績を説明した。
その後、太一が話し始めた。
「今回、図面を拝見して、単に試作品を作るだけでなく、量産移行時にいくつか注意すべき点があると考えました」
相手の技術担当者が顔を上げた。
太一は続けた。
「特に、この部分は試作では問題が出なくても、量産時にばらつきが出やすい可能性があります。そこで、初期段階から加工条件と検査結果を記録し、量産時に再現しやすい形で管理することを提案します」
購買担当者が資料を見た。
「見積だけではなく、こういう管理も含めて提案しているんですか?」
太一はうなずいた。
「はい。試作だけで終わらせず、量産に進む時に御社が困らないようにするためです」
森下も補足した。
「また、設計変更が入った場合も、変更理由と影響範囲を記録します。担当者様が変わった場合でも、過去の判断が追えるようにします」
技術担当者は、少し前のめりになった。
「正直、そこはうちでも不安に思っていました。試作はできても、量産でばらつくと困るので」
太一は落ち着いて言った。
「そこを最初から一緒に見たいと考えています」
その瞬間、空気が変わった。
価格の話だけではなくなった。
相手は、岡田テックを単なる加工先として見ていなかった。
量産まで一緒に考えてくれる会社として見始めていた。
社長が気づいた「選ばれる理由」の作り方
提案から数日後。
顧客から連絡が入った。
「岡田テックさんにお願いしたい」
森下は、驚いた顔で太一に報告した。
「取れました」
太一も少し驚いた。
「価格は?」
「最安ではありませんでした」
信三は、その言葉を聞いて顔を上げた。
最安ではないのに、選ばれた。
それは岡田テックにとって、大きな出来事だった。
顧客からのコメントはこうだった。
「価格だけなら他社もありました。ただ、量産時の問題まで考えて提案してくれたのは岡田テックさんだけでした」
信三は、その言葉を何度も読み返した。
量産時の問題まで考えてくれた。
これまで岡田テックは、良い部品を作ることに集中してきた。
それは間違いではない。
だが、お客様が本当に欲しいのは、良い部品だけではなかった。
安心して任せられること。
先の問題を一緒に考えてくれること。
失敗を減らしてくれること。
担当者が社内で説明しやすい資料を出してくれること。
そこまで含めて、価値だった。
信三は太一に言った。
「お前、よく考えたな」
太一は少し照れたように笑った。
「西尾さんとAIで整理しただけだよ。でも、元になるのはうちの現場の経験だよ」
信三は黙った。
太一は続けた。
「川口さんや村上部長が、普段どこを見ているか。それがあるから提案できた。AIだけじゃ無理だよ」
その言葉を聞いて、信三は胸の奥が少し熱くなった。
AIは、会社の技術を否定するものではない。
会社の技術を、お客様に伝わる形に変えるものだった。
製造業のAI導入で高単価案件を増やす考え方
製造業が高単価案件を増やすためには、単に技術力を高めるだけでは足りません。
もちろん、技術力は重要です。
しかし、技術力があっても、お客様に伝わらなければ価格比較になります。
「この部品はいくらですか?」
この質問にだけ答えていると、どうしても安い会社と比べられます。
一方で、
「この部品を量産する時、どこで問題が起きそうか」
「設計変更が入った時、どこを記録すべきか」
「納品後にお客様の現場で困りそうなことは何か」
ここまで提案できる会社は、価格だけでは比較されにくくなります。
AIは、この提案づくりに活用できます。
たとえば、次のようなことです。
・過去の受注履歴から利益率の高い案件を整理する
・顧客ごとの困りごとを分類する
・過去のクレームや納期変更から注意点を見つける
・提案書のたたき台を作る
・営業担当が聞くべき質問リストを作る
・技術者の経験を、お客様向けの言葉に変える
ただし、AIだけで高単価案件が取れるわけではありません。
大切なのは、会社の技術、現場の経験、お客様への理解です。
AIは、それを整理して伝わる形にするための道具です。
岡田テックが今回選ばれたのは、AIがすごかったからではありません。
長年積み上げてきた技術と現場経験を、AIを使ってお客様に伝わる提案に変えたからです。
ここに、製造業のAI活用の本当の価値があります。
価格ではなく、未来の安心で選ばれる会社へ
受注が決まった日の夜。
信三は工場を歩いていた。
機械の音が、いつもより少し頼もしく聞こえた。
川口が作業台で部品を確認している。
村上が工程表を見ながら段取りを組んでいる。
森下が顧客への確認事項を整理している。
太一は西尾と、次の提案資料について話している。
信三は思った。
この会社には、もともと力があった。
技術もある。
社員もいる。
経験もある。
お客様への思いもある。
ただ、それを伝える形が足りなかった。
AIは、そこを変え始めている。
人の頭の中にあった経験を、見える形にする。
顧客の困りごとを、整理して提案にする。
若手が考え、ベテランが支え、社長が未来を見る。
信三は、少しだけ肩の力が抜けた。
「価格で勝てなくても、選ばれる道はある」
そう思えたのは、久しぶりだった。
その夜、太一が事務所で資料を片付けていた。
信三は声をかけた。
「太一」
「何?」
「今回の提案、よかった」
太一は少し驚いた。
信三が仕事のことで素直に褒めることは、あまりなかった。
「ありがとう」
太一は短く答えた。
信三は続けた。
「AIっていうのは、便利な道具というより、考える道具なんだな」
太一はうなずいた。
「そうだと思う。おやじたちが作ってきた技術を、次の時代に合わせて伝える道具でもある」
信三は、何も言わなかった。
だが、その言葉は心に残った。
岡田テックは、安さで勝つ会社ではない。
未来の困りごとを先回りして、お客様に安心を届ける会社になる。
その方向が、少しずつ見えてきた。
次回。
岡田テックの変化は、営業や現場だけにとどまりません。
次に動き始めるのは、採用と人材育成です。
若手が入っても育たない。
求人を出しても応募が来ない。
会社の魅力が伝わらない。
そんな悩みに対して、太一と西尾はAIを使って、岡田テックの採用メッセージを見直します。
「人が来ない会社」から、
「若手が未来を感じる会社」へ。
岡田テックの次の挑戦が始まります。
この記事で分かること
・価格競争から抜け出せない
・良い技術があるのに、価値が伝わらない
・営業が見積対応だけになっている
・顧客の困りごとを提案に変えられていない
・高単価案件を増やしたい
・AIを営業や経営にどう活かせばいいか分からない
AI導入・AI講座のご案内
岡田テックの物語は、特別な会社だけの話ではありません。
年商10億円を超える製造業でも、次のような課題を抱えている会社は少なくありません。
株式会社アップオンコンサルティングでは、お客様の会社向けに、AI導入とAI活用を実務で進めるための講座・支援を行っています。
1.従業員向け「AI技能習得講座」初級者編
AIを初めて使う従業員の方でも、基本操作から実務活用まで学べる講座です。
最終的には、簡単なAIアプリ作成まで進めることで、日常業務にAIを活かせる人材を育てます。
・製造業が大手企業との価格競争で勝ちにくい理由
・AIを使って顧客の未来課題を見える化する考え方
・高単価案件を取るための提案営業の作り方
・「部品を売る会社」から「課題を解決する会社」へ変わる方法
・経営者向けAI活用で営業力を高めるポイント
2.経営者向けAI講座
経営者がAIを経営にどう活かすかを学ぶ講座です。
単なるAIツールの使い方ではなく、売上、利益、業務改善、社員教育、営業改善、事業承継、意思決定にAIをどう組み込むかを学んでいただきます。
3.AI講師・コンサルタント向け「顧客獲得講座」
AI講師、AIコンサルタントとして活動したい方向けの講座です。
売れる講師、売れるコンサルタントになるために、商品設計、見込み客獲得、個別相談、契約導線を学び、月160万円以上の売上を目指していただく講座です。
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AI講師になったものの、
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お問い合わせ先
株式会社アップオンコンサルティング
電話
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