日曜日の夜、ノートを開く。1行目に「うちの強みは」と書いたところで、手が止まる。
昨日の第1話に書いたとおり、作業の速さだけで勝負している会社は、AIを入れれば入れるほど、下請け化の構造に入りやすくなります。それなら、下請けにならない側に立つには、何を持てばよいのでしょうか。今日は、ノートの上でそれを探します。
読み終えるころには、記録の種類を3つ並べたノート、新しい有料の提供の案、そして明日の朝礼でそのまま読める原稿が、手元に残ります。
この記事の第4節に、明日の月曜日の朝礼でそのまま読める原稿を載せています。その先の、宣言のあとに社員が聞きそうな質問10個と答え方、宣言の前に責任の決めること7項目、評価の書き換え、最初の30日の進め方をまとめた、65ページの「AI導入の『宣言』から30日までの、社長用キット」を、LINEのお友だち追加でお渡ししています。追加したあと、トーク画面で「宣言」と送ると届きます。
LINEでお友だち追加するID検索: @093uxerc

1 競争のルールが変わった世界で「参入障壁」をどこに築くか
投資家のウォーレン・バフェットは、株主への手紙の中で、企業の強みを、城を守る堀(moat)にたとえて語ってきました。1995年の株主への手紙には、突破できない堀に守られた経済的な城を探している、という趣旨の記述があります(筆者訳)。
堀という字は、この記事の題名では濠と書いています。意味は同じです。ここからは題名に合わせて、「濠」と「モート」を使います。
モートとは、他社がすぐには真似できない、自社だけの強みを指します。この記事では、参入障壁も同じ意味で使います。
少し前のデジタル化の波を振り返ってみます。McKinsey Quarterlyの2026年5月15日の記事は、ウェブサイトやアプリは真似されてしまい、差がつかなかったと述べています。差が広がったのは、顧客とのやり取りの流れ全体に、デジタルとAIを組み込んだ企業だった、という述べ方です。今回も同じ向きになるのではないか、というのは私の見方です。
生成AIの世界では、機能も広告の画像も営業の文面も、すぐに真似されます。それなら、何が濠になるのでしょうか。私は、濠の置き場所を四つに整理しています。同じ記事が挙げているのは9つのモートで、四つではありません。この四つは、あくまで私の整理です。

一つ目は、独自データと、使うほど育つ循環です。AIは、どの会社も同じものを使えます。差が出るのは、交渉の履歴や、熟練社員の判断のコツのように、自社しか持たない泥臭いデータです。使うほどデータが貯まり、精度が上がり、さらに使われる。この循環は、データ・フライホイールと呼ばれます。
二つ目は、お客様の基幹業務に深く組み込まれることです。業務画面や基幹データとつながっていれば、お客様は乗り換えにくくなります。
三つ目は、デジタルの外側にある、最後の現場での届け方です。現場へ駆けつける足回りや、対面での丁寧なやり取りは、画面の中だけで勝負する会社には真似しにくい部分です。
四つ目は、制度・信頼・ガバナンスです。ガバナンスとは、社内の管理の決まりを指します。機密情報の漏れや、AIがもっともらしい嘘を答えること(ハルシネーションといいます)に、決まりと認証で備えている。この信頼そのものが、参入障壁として働きます。
四つすべてに同時に手を付けると、力が散ってしまいます。足元にいちばん近い一つから、始めます。
2 自社の中に眠る「隠れ資産」の発掘と再定義
「うちには特別なデータがない」と話す経営者は、私が見るかぎり、少なくありません。資産を「きれいに整った数字」としてしか見ていないからではないでしょうか。
たとえば、受注と納品を重ねてきた製造業や卸売業を考えてみます。本当に価値があるのは、注文書や納品書よりも、表にまとまっていない対応の記録です。なぜその特別な仕様変更を求められたのか。過去にどんなトラブルを、どう直したのか。これをAIに読ませれば、見積もりの下書きを速く出せる仕組みに育てられるかもしれません。あくまで、考えるための例です。

起こりうる失敗を一つ挙げます。想像した場面で、体験談ではありません。まず、整ったExcelを集めはじめる。集計表は揃っても、「なぜそうしたのか」は、どこにも書かれていません。その答えは、ベテランの頭の中にあります。
第一歩は、現場の社員が、口頭やメモ、頭の中だけで処理している「不条理への対応ノウハウ」を、ノートに書き出すことです。そのための依頼文を用意しました。記録の種類の名前を貼ると、AIが、自社にしか貯まらないものを3つ選び、囲い込みやすい順に並べてくれます。囲い込みやすいとは、毎日の仕事のついでに、自然に貯まり続けることを指します。
この依頼文と、第3節の依頼文は、2026年10月17日に、記入例のままClaudeに送り、答えが返ってくることを確かめました。ChatGPTとGeminiでは試していません。
AIに貼る前に、確認することが1つあります。データをAIサービスに入れる前に、自分が契約しているプランの扱いを、公式の説明で見てください。
OpenAIの公式ページには、ChatGPT Business、ChatGPT Enterprise、APIのビジネスデータは、既定ではモデルの学習に使わないと書かれています。Anthropicの公式の説明では、業務向けのClaudeとAPIは、既定では入力と出力を学習に使わないとされています。ただし、フィードバックを明示的に送ったときなどは別です。Anthropicのこのページの更新日は2026年8月18日です。
GoogleのWorkspaceについては、対象のエディションで、顧客のデータが許可なくモデルの学習に使われないとされています。自社のWorkspace契約の範囲での話です。このページの更新日は2026年10月6日です。
個人向けのプランや無料版の扱いは、各社で違います。ここでは確かめていません。会社の資料を入れる前に、自分のプランの設定を見てください。
この依頼文に入れるのは、記録の種類の名前だけです。実際の記録の中身は、貼らなくて大丈夫です。
記入例は、第1話と同じ、架空の会社で作ります。従業員12人の、金属部品の加工会社です。
・見積書の修正履歴(いつ、どの項目を、なぜ直したか)
・問い合わせメールと、返信の履歴
・クレームの内容と、直し方の記録
・図面と、加工のときの注意点のメモ
・得意先ごとの、納期の希望の記録
・月ごとの売上の一覧
手順1 新しいチャットを始めます。
手順2 下の依頼文を、全文コピーします。
手順3 チャットの入力欄に貼ります。
手順4 「ここに貼る」の部分を消して、自社に貯まっている記録の種類を貼ります。
手順5 送信します。
コピーする依頼文は、これです。
「あなたは、中小企業のデータの整理を手伝う相談相手です。これから、私の会社に貯まっている記録の種類を貼ります。記録の中身ではなく、種類の名前だけです。次の順で答えてください。
1 記録の種類のうち、他社が買えない、自社にしか貯まらないものを3つ選んでください。
2 その3つを、囲い込みやすい順に並べてください。囲い込みやすいとは、毎日の仕事のついでに、自然に貯まり続けることです。
3 3つそれぞれについて、貯め方の工夫を1つ、使うたびに良くなる改善の仕方を1つ書いてください。
4 最後に、社外のAIサービスに入れてよい記録と、入れない記録の線引きの案を、1つ書いてください。取引先の個人情報と、秘密保持契約のある資料は、入れない側にしてください。
守ること。
・記録の種類に無いものは、付け足さずに答えてください。
・これは案です。私が現場で確かめます。
私の会社に貯まっている記録の種類は、次のとおりです。
ここに貼る」
記入例で動かしたところ、「見積書の修正履歴」「図面と加工の注意点のメモ」「クレームの内容と直し方の記録」の3つが選ばれ、囲い込みやすい順の1番目は、見積書の修正履歴でした。見積を直すたびに、仕事のついでに貯まるからです。

返ってきた線引きの案は、1行にまとめて、紙かメモに書きます。それを社内で共有するところまでが、今日の作業です。
取引先の個人情報と、秘密保持契約のある資料は、プランにかかわらず、入れる前に社内のルールで確かめてください。これは公式の主張ではなく、私の助言です。
3 ビジネスモデルの引き算と掛け算
「AIで新しい機能を足そう」という足し算の前に、作業のコストを削る「引き算」と、お金をもらう場面(マネタイズポイント)を変える「掛け算」を考えます。
手作業の時間をAIで大きく減らし、浮いた時間をお客様との対話に回す。そのうえで、成果が出たかどうかに対して対価をもらう形へ、少しずつ移していきます。これを成果伴走型と呼びます。成果が出るまで一緒に動き、成果に応じてもらう契約のことです。
大きな一手になりえますが、収益が上がると約束できる話ではありません。小さく試します。McKinseyの記事は、時間単価で請求する業種は、成果に応じた価格づけの影響を受けやすいと述べています。
起こりうる失敗を一つ挙げます。想像した場面で、体験談ではありません。成果の測り方を決めないまま、書式だけを成果払いに変えると、請求の時点で認識がずれてしまいます。切り替える前に、何を成果と呼ぶのかを、お客様と言葉にしておきます。
次は、いまのお客様に向けて、新しい有料の提供を3案出し、1つ選びます。
AIに渡す材料は2つです。材料1は、いまのお客様が、別の形でお金や手間をかけていること。材料2は、自社のデータと仕事の流れで、できることです。
記入例は、先ほどの架空の会社で作ります。
材料1の記入例:
得意先は、納品した部品の不具合を、自社の検査担当が毎月、目で確かめている。納期の遅れの問い合わせにも、手間がかかっている。
材料2の記入例:
見積書の修正履歴がある。加工ごとの注意点のメモがある。納期の実績の記録がある。
手順1 新しいチャットを始めます。
手順2 下の依頼文を、全文コピーします。
手順3 チャットの入力欄に貼ります。
手順4 材料1の「ここに貼る」を消して、自社のお客様の状況を書きます。
手順5 材料2の「ここに貼る」を消して、自社のデータと仕事の流れでできることを書きます。
手順6 送信します。
コピーする依頼文は、これです。
「あなたは、中小企業の新しい有料の提供を考える相談相手です。既存のお客様に向けた、新しい有料の提供を3案考えてください。次の材料を使ってください。
材料1 いまのお客様が、別の形でお金や手間をかけていること
ここに貼る
材料2 自社のデータと仕事の流れで、できること
ここに貼る
答えの形。
・案を3つ。案ごとに、お客様の得を1行で書いてください。
・案ごとに、価格のつけ方を書いてください。3案のうち1案は、時間単価ではなく、成果に応じた形にしてください。
・案ごとに、最初に試す小さな方法を1つ書いてください。お客様1社から始められる形にしてください。
・収益や売上の見込みは、書かずに答えてください。
守ること。材料に無いことは、付け足さずに答えてください。分からない点は、分からないと書いてください。」
記入例で動かしたところ、3案が返ってきました。納期の実績を月ごとにまとめて送る案は、基本の月額を小さくして、お客様からの納期の問い合わせ件数が減った分に応じた額をいただく、成果に応じた形でした。ただし、件数は材料に書いていないので、数えてから決める、とAIが書き添えています。

3案のうち、お客様1社に話せる、いちばん小さいものが今週の候補です。
次は朝礼の原稿です。その前に、「宣言したあと、社員に何を聞かれるのか」が気になった方へ。キットが近道です。社員の質問10個と、社長の答え方、言ってはいけない内容、責任の決めること7項目が、実際に動かした答えの全文と記入例つきで、まとまっています。LINEのお友だち追加のあと、トーク画面で「宣言」と送ると届きます。
LINEでお友だち追加するID検索: @093uxerc

キットの中身を紹介します。社員が聞きそうな質問10個と、社長の答え方、言ってはいけない内容。宣言の前に決めておく、責任の決めること7項目。評価の書き換え表と、最初の30日の進め方。月曜の朝礼の原稿と、社員に渡す1枚。そして、実際にClaudeで動かした依頼文8本と、答えの全文です。記入シートは4枚つきで、そのまま印刷して使えます。
4 明日(月曜日)の朝、トップが下すべき決断
どれほど良い濠を描いても、月曜日に現場へ持ち込んだとたん、拒絶反応に遭って立ち消えになることがあります。社員は、「効率化されたら、残業代が減るのではないか」「AIで失敗したら、怒られるのではないか」と、不安を抱えているからです。
だからこそ、道具を入れるより先に、評価の物差しを変えます。明日の朝礼で、経営者みずからが、次の三つの約束を、全社に宣言します。
一つ目は、「AIを使って、たとえば仕事を半分の時間で終えた社員を、組織でいちばん高く評価する」という宣言です。半分は仮の数字です。時間をかけた苦労をたたえてきた従来の文化は、いったん横に置きます。
二つ目は、「AIで浮いた時間は、新しいお客様との対話や、新しい事業の種まきに使ってほしい」という宣言です。
三つ目は、「AIの誤った出力や失敗の責任は、社内のルールの範囲で、社長である自分が引き受ける」という宣言です。故意の不正や、法令違反は別です。宣言の前に、責任の取り方を社内で決めておきます。
社長が口に出して読める、朝礼の原稿です。
「おはようございます。今日は、AIについて、三つのお約束をします。
一つ目です。AIを使って、仕事を早く終えた人を、この会社でいちばん高く評価します。長く働いたことより、AIを上手に使って成果を出したことを、私は見ます。
二つ目です。AIで空いた時間は、新しいお客様と話す時間や、新しい仕事の種をまく時間に使ってください。空いた分に、これまでの作業を詰め込むことはしません。
三つ目です。AIが間違えたときや、挑戦して失敗したときの責任は、会社のルールの範囲で、私が引き受けます。ただし、故意の不正や、法令に反することは別です。皆さんは、安心して試してください。以上です。」

記入例です。架空の、従業員12人の金属部品の加工会社の社長が、実際に読む形です。実在しない会社です。
「おはようございます。今日は、AIについて、三つのお約束をします。
一つ目です。見積書の下書きや、問い合わせへの返信を、AIで早く仕上げた人を、この会社でいちばん高く評価します。かけた時間の長さではなく、早く仕上げて、お客様と話す時間を作れたかを、私は見ます。
二つ目です。見積の作業で空いた時間は、得意先を訪ねて、困りごとを聞く時間に使ってください。空いた分に、別の書類作業を詰め込むことはしません。
三つ目です。AIが出した見積の数字が間違っていた場合の責任は、会社のルールの範囲で、私が引き受けます。ただし、故意の不正や、法令に反することは別です。まずは、間違いを見つけたら、すぐに私に教えてください。以上です。」
自社用にするときは、一つ目と二つ目に出てくる仕事の名前だけを、自社の仕事に置き換えます。三つ目は、文言を変えずに読みます。読む前に、責任の取り方を社内で決め、弁護士や社会保険労務士に確認します。
起こりうる失敗を一つ挙げます。想像した場面で、体験談ではありません。約束は読み上げたのに、評価の表は前のまま、という場面です。社員は、言葉よりも表を見ています。表も、同じ週のうちに書き換えます。
朝礼のあとは、たとえば、月曜日に各自が仕事の一覧を第1話の依頼文で仕分け、金曜日に一人1行で振り返ります。これは私の案で、試した結果ではありません。
評価の物差しを、「時間をかけた頑張り」から「AIを土台にした価値の創造」へ書き換える。これは、他社がすぐには真似できない、組織の強みの土台になりえます。
今週のうちに、ノートに1行だけ書きます。「自社にしか貯まらない記録は、( )です」。その1行が、自社だけの濠を築く、最初の一歩になります。
最後にもう一度。AI導入の「宣言」から30日までの、社長用キットは、LINEのお友だち追加で届きます。追加したあと、トーク画面で「宣言」と送ってください。
LINEでお友だち追加するID検索: @093uxerc

※2026年10月18日現在の情報です。
私は、「AI先生2.0」としてAI講座を4つ運営しています。
1.社員向けに「AI技能習得講座」 この講座はAIを初級から中級まで学ぶことが出来ます。
内容は、
①AIアプリの特性と最新の使い方を学べます。
②受講生にとって必要なアプリを作れるようになります。
2.経営者向けに「経営者向けAI講座」を開設しています。
内容は、
①AI9マス思考法で経営者のしたい事をまとめます。
②まとめた思考を「事業計画書」にまとめてAIで効率化・売上UP出来る方法を提案します。
3.AI講師になりたい人向けに「AI講師育成講座」を開設しています。
内容は、
①私が講座でしている内容をすべて開示して、ひとりで自信をもって講師業を開設できます。
②教材もすべてお渡ししますのですぐに講師として活躍できます。
4.売れていない講師向けに「AI講座販売プログラム」を開設してます。
内容は、
①Webポータルサイト、交流会などでの販売方法をもれなく学べます。
②教材もすべてお渡ししますのですぐに講師として活躍できます。
以上随時講座を受講できます。
講師紹介
初めまして、AI先生2.0こと西尾です。
現在、AIを使って中小企業の成長をお手伝いしています。
AIは、社会インフラとして、電気水道ガスと同じように社会にとって欠かせないものとなります。
これは、35年前のインターネット革命を思い出していただければわかると思います。
今、インターネット革命を超える「AI革命」を商機と捉え、一緒に会社を飛躍するお手伝いをします。
今がその時、その時が今です。
AIに興味がある方は、ご連絡ください。https://up-on.jp


コメント