「なんとなく忙しい会社」から、数字で判断できる会社へVol.9

売上はある。
社員も頑張っている。
それなのに、なぜ利益が残らないのか。
AIは、社長の感覚経営を「見える経営」へ変え始めた。

年商29億円、社員45名の製造業・岡田テック。

AI導入2年目に入り、会社は少しずつ変わり始めていました。

現場では、若手社員が改善提案を出すようになりました。
ベテラン社員の経験は、AIを使って新人教育に活かされ始めました。
営業では、価格競争から抜け出すために、お客様の未来の困りごとを先回りする提案が増えてきました。
採用では、求人票を見直し、若手が未来を感じられる会社づくりが始まりました。

しかし、岡田信三社長には、まだ大きな疑問が残っていました。

「本当に会社は良くなっているのか」

現場の空気は変わっている。
社員の会話も変わっている。
太一も成長している。

でも、経営者としては感覚だけでは判断できない。

売上。
利益。
残業時間。
手戻り。
クレーム。
高単価案件。
採用状況。
教育の進み具合。

これらを数字で見なければ、会社が本当に変わっているとは言えません。

この第9話では、太一とAI導入コンサルタント西尾が、AIを使って経営数字を見える化し、岡田テックが「なんとなく忙しい会社」から「数字で判断できる会社」へ変わっていく場面を描きます。

ある月末の夕方。

岡田信三は、事務所の机で月次の数字を見ていた。

売上は悪くない。

むしろ、前年同月より少し増えている。

新規の相談も増えた。
高単価の試作案件も入り始めた。
採用面でも、若手応募者の反応が少し良くなっていた。

会社は良くなっている。

そう思いたい。

だが、信三は資料を見ながら腕を組んだ。

「思ったほど、利益が残っていないな」

工場は忙しい。
社員も遅くまで働いている。
営業も動いている。
太一も毎日のように改善を進めている。

それなのに、利益が思ったほど増えていない。

信三にとって、それは長年の悩みだった。

忙しい月ほど、利益が残るとは限らない。

急ぎ対応が増える。
段取り替えが増える。
手戻りが増える。
配送がバタつく。
現場に負担がかかる。
残業が増える。

売上だけ見れば好調。

しかし、現場の中では利益を削る小さなムダが積み重なっている。

信三は、何となくそれを感じていた。

だが、何がどれだけ利益を削っているのかは、はっきり見えていなかった。

その時、太一が事務所に入ってきた。

「おやじ、月次見てるの?」

信三は資料を置いた。

「売上は悪くない。でも、利益が思ったほど残らん」

太一は静かに言った。

「そろそろ、数字の見方を変えた方がいいと思う」

信三は眉をひそめた。

「数字の見方?」

太一はうなずいた。

「売上と利益だけじゃなくて、なぜ利益が残らないのかを見る数字が必要だと思う」

目次

社長の感覚では見えないムダ

翌週、太一と西尾は、岡田テックの経営数字を整理し始めた。

対象にしたのは、売上だけではなかった。

残業時間。
手戻り件数。
納期変更回数。
クレーム件数。
急ぎ対応件数。
見積から受注までの期間。
案件ごとの利益率。
高単価案件の割合。
再注文の件数。
教育にかかった時間。

信三は、最初は少し面倒に感じていた。

「そんなに細かく見て、何になるんだ」

西尾は答えた。

「社長、売上と利益だけを見ると、結果しか分かりません。大切なのは、利益が残る原因と、利益が減る原因を見ることです」

太一も続けた。

「たとえば、売上が増えていても、急ぎ対応が増えすぎていたら現場は疲れる。残業も増える。ミスも増える。結果として利益が残らない」

信三は黙った。

確かに、その通りだった。

今までは、社長の経験と勘で見ていた。

今月は忙しそうだ。
この取引先は大事だ。
この案件は手間がかかりそうだ。
あの部署は疲れているかもしれない。

感覚としては分かる。

しかし、数字としては見ていなかった。

だから、後から気づくことが多かった。

残業代が増えてから気づく。
クレームが出てから気づく。
納期遅れが起きてから気づく。
社員が疲れた顔をしてから気づく。

それでは遅い。

太一は言った。

「AIを使えば、今までバラバラだった数字を整理して、どこにムダが出ているか見やすくできる」

信三は少し疑いながら聞いた。

「AIで利益が分かるのか」

西尾は首を横に振った。

「AIが勝手に経営判断をするわけではありません。社長が判断しやすいように、数字を整理するんです」

AIで経営数字を見える化した

太一と西尾は、まず簡単な経営ダッシュボードを作った。

難しいシステムではない。

最初は、スプレッドシートを使った簡単なものだった。

そこに、毎週確認する数字を並べた。

売上。
粗利。
残業時間。
手戻り件数。
納期変更件数。
クレーム件数。
高単価案件数。
見積提出件数。
受注率。
採用応募数。
教育チェックリストの完了数。

信三は画面を見ながら言った。

「こんなに見るのか」

西尾は笑って答えた。

「全部を毎日見る必要はありません。社長が見るべき数字と、現場が見るべき数字を分けます」

太一が説明した。

「おやじが見るのは、会社全体の方向性。現場が見るのは、日々の改善。数字の役割を分ける」

そこにAIを使った。

たとえば、週ごとの数字をAIに整理させる。

今週、残業が増えた部署はどこか。
手戻りが増えた案件はどれか。
クレームにつながりそうな傾向はないか。
高単価案件につながった営業活動は何か。
教育が進んでいる部署はどこか。

AIは、数字を社長向けの短い報告にまとめた。

以前なら、信三は分厚い資料を見ていた。

売上表。
工程表。
見積一覧。
クレーム報告。
残業集計。

見ているだけで疲れる。

だが、AIで整理された報告は違った。

今週の注意点。
改善している点。
来週確認すべき点。
社長判断が必要な点。

これが短くまとまっていた。

信三は思わず言った。

「これなら見られるな」

太一は笑った。

「それが大事なんだよ。見ない数字は、ないのと同じだから」

残業と手戻りの原因が見えてきた

数字を見える化して、最初に分かったのは残業の原因だった。

信三は、残業が増える理由を単純に「仕事が多いから」だと思っていた。

しかし、AIで整理してみると違っていた。

残業が増えていたのは、受注量が多い日だけではなかった。

急ぎの割り込み案件が入った日。
納期変更が重なった日。
製造指示の確認漏れがあった日。
新人が入ったラインで段取り替えが多かった日。
配送先の変更が直前に入った日。

そういう日に残業が増えていた。

つまり、残業の原因は単純な忙しさだけではない。

情報のズレ。
確認の遅れ。
急な変更。
教育不足。
段取りの悪さ。

これらが積み重なっていた。

太一は会議で言った。

「残業を減らすには、早く帰れと言うだけでは無理です。残業が増える前の原因を減らす必要があります」

製造部長の村上もうなずいた。

「確かに、急ぎ案件が入ると現場が崩れる。最初から分かっていれば段取りを組める」

事務の佐伯も言った。

「納期変更があった時に、どこまで伝わっているか見えると助かります」

配送の中谷も続けた。

「配送先の変更が早めに分かれば、無理なルートにならずに済みます」

信三は、その会話を聞いていた。

以前の会議なら、残業が増えた時はこう言っていた。

「もっと効率よくやれ」

しかし今は違う。

社員たちは、残業の原因を具体的に話している。

感覚ではなく、数字と事実をもとに話している。

これは大きな変化だった。

高単価案件が増えた理由

次に見えてきたのは、高単価案件の変化だった。

太一と西尾は、過去の受注データをAIで分類した。

利益率が高い案件。
継続につながった案件。
試作から量産につながった案件。
価格交渉が少なかった案件。
顧客満足度が高かった案件。

すると、共通点が見えてきた。

高単価案件は、単に難しい加工だから高いわけではなかった。

お客様の困りごとを早い段階で聞けている案件。
試作段階から相談に入っている案件。
品質や納期の不安を先回りして提案できている案件。
過去の注意点を営業と現場が共有できている案件。

こうした案件ほど、利益が残っていた。

信三は、その資料を見て黙った。

岡田テックの価値は、加工そのものだけではなかった。

相談に乗る力。
先回りする力。
現場と営業が近いこと。
技術者の判断が早いこと。
顧客情報を活かして対応できること。

それらが価値になっていた。

太一は言った。

「おやじ、これからは売上だけじゃなくて、高単価案件の割合を見たい」

信三は聞いた。

「割合?」

「うん。安い仕事をたくさん取っても、会社は疲れる。高単価で、うちの技術が活きる仕事を増やしたい」

西尾も言った。

「高単価案件の割合を毎月見れば、会社が価格競争から抜け出せているか判断できます」

信三はうなずいた。

売上が増えたかどうかだけでは足りない。

どんな売上が増えたのか。

それを見る必要がある。

製造業のAI導入で見るべき経営数字

製造業のAI導入で大切なのは、ツールを入れることだけではありません。

導入後に、会社が本当に良くなっているかを数字で見ることです。

特に年商10億円を超える製造業では、売上だけを見ても会社の実態は分かりません。

見るべき数字は、少なくとも次のようなものです。

1つ目は、粗利です。

売上が増えても、粗利が残らなければ会社は強くなりません。

2つ目は、残業時間です。

残業が増え続けているなら、現場のどこかにムダや無理があります。

3つ目は、手戻り件数です。

手戻りは、利益を削る大きな原因です。
作り直し、確認漏れ、伝達ミスは、見えないコストになります。

4つ目は、クレーム件数です。

クレームは単なる苦情ではありません。
会社の仕組みの弱さを教えてくれる情報です。

5つ目は、高単価案件の割合です。

高単価案件が増えているかどうかを見ることで、価格競争から抜け出せているかが分かります。

6つ目は、教育の進み具合です。

新人や若手がどこまで仕事を覚えているかを見える化しないと、いつまでもベテラン依存から抜け出せません。

7つ目は、顧客ごとの注意事項の共有率です。

顧客管理ができている会社ほど、納品ミスや対応ミスを減らしやすくなります。

AIは、これらの数字を整理し、社長が見やすい形にまとめることができます。

ただし、数字を見る目的は社員を責めることではありません。

数字を見る目的は、会社を良くすることです。

誰が悪いかを探すのではなく、どこを直せば会社が楽になるかを見る。

これが、製造業のAI活用で大切な考え方です。

社長の仕事が変わり始めた

数カ月後。

岡田テックの会議は、以前とは違うものになっていた。

信三が一方的に話す会議ではない。

太一がダッシュボードを見ながら話す。

村上が現場の数字を説明する。

佐伯が受注と納期変更の状況を伝える。

中谷が配送時の注意点を共有する。

森田が教育チェックリストの進み具合を報告する。

川口も、若手教育で気づいた点を話すようになっていた。

信三は、以前より発言が少なくなった。

だが、不安ではなかった。

むしろ、会社が見えるようになってきた。

今までは、社長の勘で全体を見ていた。

だが今は、社員が数字を持ち寄り、自分たちで考えている。

信三は思った。

社長の仕事は、全部を指示することではないのかもしれない。

見るべき数字を決める。
会社の方向を示す。
社員が判断できる基準を作る。
次の投資を決める。
息子に任せるところを任せる。

それが、これからの社長の仕事なのかもしれない。

会議が終わった後、信三は太一に声をかけた。

「太一」

「何?」

「数字で見ると、会社は思ったより分かるもんだな」

太一は笑った。

「おやじの勘も大事だよ。でも、勘だけだと社員に渡せない」

信三は黙った。

太一は続けた。

「数字にすると、みんなで見られる。みんなで考えられる。だから会社の力になる」

信三は小さくうなずいた。

自分の頭の中にあった判断が、少しずつ会社全体に広がっている。

それは、少し寂しくもあり、少し誇らしくもあった。

その夜、信三は一人で工場を歩いた。

以前なら、工場を見回りながら、問題がないかを探していた。

しかし今は違う。

この会社は、自分一人で見なくても、少しずつ見える会社になってきている。

社員が見ている。
太一が見ている。
数字が教えてくれる。
AIが整理してくれる。

信三は、心の中でつぶやいた。

「任せる準備が、少しずつできてきたのかもしれんな」

岡田テックは、なんとなく忙しい会社から、数字で判断できる会社へ変わり始めていた。

次回。

岡田信三は、ついに息子の太一に会社のかじ取りを本格的に任せる決意をします。

しかし、それは引退ではありません。

父が積み上げてきた技術と信用。
息子が進めてきたAIと仕組み。
その二つが重なった時、岡田テックは本当に次の時代へ進み始めます。

最終話。

AIが変えたのは、会社だけではありませんでした。
父と息子の関係も、静かに変えていったのです。

この記事で分かること

・製造業が忙しいのに利益が残らない理由
・AIを使って経営数字を見える化する考え方
・残業、手戻り、クレームを改善する数字の見方
・高単価案件を増やすために見るべき指標
・経営者向けAI講座で学ぶべき数字活用のポイント

AI導入・AI講座のご案内

岡田テックの物語は、特別な会社だけの話ではありません。

年商10億円を超える製造業でも、次のような課題を抱えている会社は少なくありません。

・売上はあるのに利益が残らない
・忙しい理由が数字で見えていない
・残業や手戻りの原因が分からない
・高単価案件を増やしたい
・経営数字を社員と共有できていない
・AIを経営判断にどう活かせばいいか分からない

株式会社アップオンコンサルティングでは、お客様の会社向けに、AI導入とAI活用を実務で進めるための講座・支援を行っています。

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最終的には、簡単なAIアプリ作成まで進めることで、日常業務にAIを活かせる人材を育てます。

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